「慕雨(ぼう」〔Ⅱ〕(短歌)
・田蛙(たかはづ)の鳴きとほす夜の閑(しづ)けさに
誰(たれ)の今際(いまは)を刻みてゐるや
・蝸牛(ででむし)をのせ草の葉の暮れ残る
ででの微睡(まどろみ)風に揺れつつ
・里の灯を映す植田の傍らの
ポストに落とす文(ふみ)のときめき
「慕雨(ぼう)」〔Ⅰ〕(短歌)
・廃校の音楽室の月影に
ショパン奏づる小鬼(こおに)が独り
・一橋(いつけう)の虹も背負へり金次郎
古びし校舎アカシアの花
「畝雨(ほう)」〔Ⅶ〕(俳句)
☘季節は入り混じっております。
産土(うぶすな)の阿吽(あうん)も光る風のなか
街騒(まちざゐ)を朧ろにくるみ暮れなづむ
夕焼けて三角ベース暮れ残る
セーターの解(ほど)かれ俺は毬(まり)となる
昼寝の背諍ひあとの孤影(こえい)かな
「畝雨(ほう)」〔Ⅵ〕(俳句)
☘季節は入り混じっております。
一番星石焼芋のポーがゆく
さざめき絶え児らの数だけ雪兎
軽やかに入日に吹かれ風花す
道連れは雪女かも厨(くりや)の灯
ラムネ玉小さな嘘が鳴つてゐる
風船を吸うて碧(あを)増すけふの空
ふらここの小さき尻を押せば嘻嘻(きき)
水鉄砲きれいな虹ができるやう
手花火や皆それぞれの闇を背に
さらし映ゆ祭り太鼓のをみな達
「畝雨(ほう)」〔Ⅴ〕(俳句)
☘季節は入り混じっております。
薬の香淡くとどめて紙風船
おほどかに五色の風や吹流し
あめんぼう一枚上の水を行く
子規庵を上野の方(かた)へ黒揚羽
残照へ雀ら散らすばつたんこ
暮れなづむ風に遊ぶや雪蛍
凍蝶や死装束の陽をまとふ
音を吸ひ思ひ出を吸ひ雪は積む
朝焼けの光にじませ軒氷柱
雪解水小さな春を奏でつつ
「畝雨(ほう)」〔Ⅳ〕(俳句)
☘季節は入り混じっております。
残照の湖畔に二つ浮人形
鳥雲にセピア色した若き父
鳩吹くや子はかなしいと国言葉
糸遊や古き家族の夢ばかり
山笑ふ新しき辞書匂ふ如
父の膝に抱かれラムネを猪口で飲む
せせらぎや河童の皿も夕焼けて
稲架(はざ)暮れぬ悪い人ぢやあなかつたね
我もまた縁日の灯の金魚かな
吹き抜けし夢のかけらや竹夫人