鬼丸凜太の随想&創作&詩&日記

サウダーデを心に沈めた漫ろ筆。日曜詩人としての余生。

2024-09-01から1ヶ月間の記事一覧

「孚雨(ふう)」〔Ⅳ〕(五行歌)

・隙間風に熾(お)きりたつ炉辺(ろべ)の火を 酒の肴として 酌み交わす まだ帰らないでね 毛衣を着た ふるさとの死者たちよ ・廃校の音楽室のオルガンが低くうたいはじめた 居並ぶ楽聖たちのウイッグが 十三夜の光の中にある 独り お下げの少女が忘れ物をとり…

「孚雨(ふう)」〔Ⅲ〕(五行歌)

・大勢で騒ぐのは好きじゃないから 独りで 静かに騒いでいる 風に吹かれる 一本のすすきのように ・自分のことは 自分がいちばんわかっていない? ほんとかな 自分のことはやはり 自分がいちばんわかっている ・小学校の雲梯おぼえている? 夕やけに向かって…

瀬に送る(創作)

隣りの地区にある小学校までは子供の足で一時間の道のりだった。子供たちにとってそれは物語の生まれるのに充分な時間である。 高津周作は四十数年振りに母校の前に立っていた。そこから自分の生まれ育った町まで歩くつもりなのだった。七月下旬の陽射しの強…

「孚雨(ふう)」〔Ⅱ〕(五行歌)

・昼寝する人が可愛いのは 背中がリハーサル しているからではないだろうか お別れのリハーサルを しているからではないだろうか ・雪国の昭和の少年は 誰もが一度は あったはず おしっこで雪の上に 文字を書こうとしたことが ・風鈴の音は 待ちぼうけによく…